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磁気記録材料事業の大飛躍

 

当社は、急伸するビデオカセットテープ市場に対し、1982年(昭和57年)、“フジビデオカセットスーパーHG”を、また、翌1983年(昭和58年)には、同“スーパーST”を発売し好評を得る。この間、コンパクトビデオカセットテープの発売、放送局のENG・EFP化に対応した専用テープの開発も進める。オーディオテープでは、1983年(昭和58年)に、カーステレオ専用カセットテープを開発、また、コンピューター用テープの高性能化を図る。フロッピーディスク市場に対しても、本格参入を目指し、“FDシリーズ”・“MDシリーズ”を開発する。一方、生産面では、ビデオテープ専用工場を建設して、月産700万巻体制を確立、また、フロッピーディスクの生産体制も整備する。

ビデオカセットテープ“スーパーHG”の誕生

1970年代後半になって登場したベータ方式とVHS方式の二つのカセット方式1/2インチホームビデオは,新しい映像システムとして急速に普及し,それに伴って,ビデオカセットテープの需要も急増した。当社は,1978年(昭和53年)に,ビデオカセットテープの自社ブランドでの販売を開始,翌1979年(昭和54年)には,“フジビデオカセットHG”を発売,VHS,ベータ両タイプのラインアップを整備し,内外市場で確固たる基盤を築いてきた。

1980年代に入って,ホームビデオは,本格的な普及期を迎えた。1983年(昭和58年)には,その年間生産台数は1,200万台を記録し,カラーテレビをしのぐ大型商品に成長した。それに伴って,ビデオカセットテープの需要も激増し,一時は生産が間に合わない状況を現出した。このため,各メーカーとも一斉に設備を増強し増産体制を整えた。当社も,1980年(昭和55年),小田原工場のホームビデオテープの生産能力を月産100万巻から150万巻に引き上げたが,それでも生産不足をきたしたので,小田原工場内にビデオテープ専用工場を建設し、増産に対処した。

この間,製品の性能・品質の向上に努め,1982年(昭和57年)には,S/N比を向上させるとともに,走行性にも優れた第2世代のビデオテープ“フジビデオカセットスーパーHG”を開発した。

ビデオテープの映像の美しさと映写耐久性を向上させるには,S/N比と走行性をともにアップすることが必要であるが,S/N比を上げるためにテープの平滑性を高めると走行性が落ちるというように,両者は互いに相反する性質であり,このことがテープの性能アップの一つの技術的な壁となっていた。

当社は,この障壁を突破するための研究を進め,「DBコーティング技術」という複合技術を開発し,S/N比・走行性とも優れた第2世代のビデオテープ“フジビデオカセットスーパーHG”を生み出した。このDBコーティング技術の中には,次のような技術が織り込まれている。

[写真]フジビデオカセット スーパーHG(VHS用,ベータ用)

フジビデオカセット スーパーHG
(VHS用,ベータ用)

  1. 超薄層同時多層塗布技術
    0.3ミクロンから0.7ミクロンの超薄膜層を同時多層塗布する技術
  2. デュロバック技術
    耐久性・信頼性に優れた専用のバックコート技術
  3. ニュースーパーファインベリドックス
    スーパーHGのために開発した高密度磁性体
  4. 超平滑ベース
    高S/N比を実現するために特別に開発した超平滑ベース
  5. 超分散配向技術
    超微粒子磁性体を高密度で均一に分散し,規則正しく配列し,さらに集積度をあげながら平滑にする技術

このような当社ビデオテープ製造技術の粋を集めて誕生した“スーパーHG”は,従来の“HG”をはるかに超える次のような特長を有していた。

  1. 新磁性体採用によるS/N比の向上
  2. 新DBコーティング技術によるカラーS/N比の向上と画質の60%アップ
  3. VEリーダー(帯電防止リーダーテープ)とデュロバックによるドロップアウトの追放
  4. 当社独自のSDH(スーパーヘビーデューティ)バインダーとデュロバックが生む高耐久性・高信頼性
  5. オーディオS/N比の音質重視設計
  6. 紙粉の出ない,出し入れ容易な白いポリプロケース
  7. HGタイプと同価のため,コストパフォーマンスが一段と向上

“フジビデオカセットスーパーHG(VHS用)”は,1982年(昭和57年)3月,T-120(120分)・T-100(100分)・T-80(80分)・T-60(60分)・T-40(40分)・T-30(30分)・T-20(20分)の7種類を一斉に発売し、3倍モードで1時間ごとの各サイズをそろえて多様なニーズに即応できる態勢を整えた。また,VTRをめぐる新しい動き,すなわち,より高画質を目指した新しいテレビや4ヘッドビデオデッキの登場,あるいはノイズレスビデオの開発,3倍モード録画の一般化に対応でき,3倍モードで見ても,あるいは気候的に厳しい条件下で使用しても,ダビングでも,鮮明な美しい画像が得られる。その意味で“HG”をはるかに超えた“スーパーHG”の名にふさわしいテープであった。

“スーパーHG”の海外への紹介は,1982年(昭和57年)1月,米国ラスベガスで開催された家電関係では世界最大規模のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で行なった。当社は,海外市場には“HG”は未導入であったが,この“スーパーHG”で,一気に他社品をしのぐ製品を発表し,大きな反響を呼んだ。

この“スーパーHG”の輸出も欧米向けを中心に極めて好調に推移し,わが国からのハードの輸出急伸とも相まって,受注量は急増し,しばしば生産が追いつかない状況を現出した。

なお,ベータタイプの“フジビデオカセットスーパーHG”は,1983年(昭和58年)2月に発売した。

また,長時間録画に対するニーズが高まったのに対応して,1983年(昭和58年)10月に,長時間ビデオテープ“フジビデオカセットスーパーHG T-160(VHS用)”を,また,翌11月に,同“スーパーHG L-830(ベータ用)”を,それぞれ発売した。録画・再生時間は,3倍モードで,T-160は8時間,L-830は5時間が可能である。

この新製品は,“スーパーHG”に採用したDBコーティングに加え,今回特に開発した超平滑デュアルテンシライズベースを採用,高品質で耐久性・信頼性により優れたテープとした。

なお,ビデオテープの高画質化時代の幕開けをつげた“スーパーHG”の開発に対して,日本化学会から,当社の開発担当の技術者に対し1983年度(昭和58年度)化学技術賞が授与された。

ビデオカセットテープ“スーパーST”シリーズの発売

当社は,現在のビデオテープ需要の大半を占めるスタンダードタイプに対するユーザーの要望が,「画質の良さ」に加えて,「何回も使えて長持ちするテープ」「繰り返し使っても画質がおちないテープ」「トラブルがなく安心して使えるテープ」という耐久性の要求が強くなっていることに応えて,

  1. 耐久性に優れたニューHD(Heavy Duty)バインダー
  2. タフで滑らかな新開発ST(Smooth & Tough)ベース
  3. 超微粒子で再生減磁が少ないニューファイングレインベリドックス磁性体
  4. 強いテープを保証する独自の下塗層

などの新技術を駆使した“フジビデオカセット スーパーST”を開発した。1983年(昭和58年)10月から,“スーパーST(VHS用)”は,T-20(標準モード20分)からT-160(同2時間40分)までの6サイズ,“スーパーST(ベータ用)”は,L-125(ベータIIモード30分)からL-750(同3時間)までの7サイズのフルラインアップで,同時に新発売した。なお,ベータタイプについては,同年11月に,業界初の新サイズL-660(ベータIIモード2時間40分,ベータIIIモードで4時間の録画再生可能)を発売し,8サイズとし,ラインアップをさらに強化した。

“スーパーST”の使用上の主な特長としては,

[写真]フジビデオカセットスーパーST(VHS用,ベータ用)

フジビデオカセットスーパーST
(VHS用,ベータ用)

  1. 耐久性の大幅な向上により,繰り返して録画・再生しても,画質劣化やドロップアウトの増加がほとんどない。
  2. 高速サーチ・静止・スローモーションなど,テープ負担のかかるあらゆるモードで再生しても,常に滑らかな走行を実現し存分に特殊再生が楽しめる。
  3. 気候の変化や寒暖差など,テープにとっては過酷な条件下でも温湿度などに左右されない安定走行が約束される。
  4. 新磁性体とSTベースにより,カラーS/NやビデオS/Nをそれぞれ0.5dBアップし,標準モードはもちろん,長時間モードでも十分美しい画像が再現される。

などがあり,好評をもって迎えられている。

コンパクトビデオカセットテープの発売

[写真]フジコンパクトビデオカセットスーパーHG TC-20(VHS用)

フジコンパクトビデオカセットスーパーHG
TC-20(VHS用)

家庭用VTRが,新しい映像システムとして急速に普及し,それに伴って,ビデオカメラで自ら撮影し,それを再生して楽しもうという人が増えるにつれて,より小型のコンパクトビデオカセットテープを求める声が強くなってきた。

このような要望に応えて,VHSグループ各社は,1982年(昭和57年)5月,現行VHS方式と互換性のあるVHSコンパクトビデオカセットの規格を取り決め,発表した。当社は,これに基づいて,VHSコンパクトビデオカセットレコーダーに使用するビデオカセットテープを開発し,同年6月,“フジコンパクトビデオカセットスーパーHGTC-20(VHS用)を発売した。

これは,ビデオカセットを従来の4分の1に小型化し,20分の録画・再生ができるようにしたもので,タバコの箱を一回り大きくした程度の大きさで,ビデオカメラの小型化を可能とし,手軽にポータブル撮影を楽しめるものとして,ビデオの活用範囲を広げていった。

ENG,EFP向けビデオカセットテープの発売

テレビ番組の制作やニュースの取材には,従来,16mmテレビ用フィルムが用いられてきた。当社は各種テレビ用フィルムを製造し放送局に納入しているが,フィルムの場合は,撮影後現像処理工程を必要とし,編集にも多少手間がかかるのはやむを得ない。しかし,取材後,寸刻を争ってオンエアするニュースでは,そのスピードが問題となる。このような現場の要請に対応して,ビデオテープがテレビ番組の制作やニュースの取材に用いられはじめ,1970年代半ばごろから急速に普及してきた。

ビデオテープによるニュース取材,あるいはビデオテープによるテレビドラマの制作システムを,ENG(エレクトロニック・ニューズ・ギャザリング),あるいはEFP(エレクトロニック・フィールド・プロダクション)という。初期のテープは2インチ幅であり,その後,据置型の3/4インチテープ使用のものや1インチテープのものも開発されたが,カメラや再生装置も大型で,持ち運びには不便なため,その用途も限られていた。しかし,ホームビデオ用に開発された1/2インチビデオカセットならば,カメラも小型化することができ,ニュース取材や屋外での番組の制作も容易になる。

[写真]フジビデオカセットスーパーHGプロフェッショナル用 タイプH421(VHS用),タイプH321(ベータ用)

フジビデオカセットスーパーHG
プロフェッショナル用
タイプH421(VHS用),タイプH321(ベータ用)

このような要請に応えて,当社はプロフェッショナルユースのための1/2インチビデオカセットテープの開発に取り組み,1983年(昭和58年)4月,“フジビデオカセットスーパーHG プロフェッショナルタイプH421(VHS用)”と同“H321(ベータ用)”を発売した。

これら二つの製品は,すでにホームビデオ用に開発していた“スーパーHG”を基礎に,プロのニーズに耐えうるようにドロップアウトの低減や過酷な使用環境下でも走行安定性を損なわないように性能のアップを図ったもので,放送関係者の間で好評を博し,内外の放送局に広く使用されている。

なお,当社では,このほかに,1982年(昭和57年)4月に3/4インチの“フジビデオカセットH520”を,1983年(昭和58年)7月には“フジビデオカセットH521”を,それぞれ発売し,ENGやスタジオ制作,そして電子編集用に最適なビデオテープとして,プロの厳しい要求に応えている。特に,このテープに採用されているファイングレインベリドックス磁性体とUバインダーは,鮮やかなカラーS/Nを実現して,繰り返しのダビングに威力を発揮しているほか,少ないドロップアウト・少ないヘッド摩耗・少ない転写,そして優れた走行安定性などの特性が好評を博した。

オーディオカセットテープの整備

[写真]フジオーディオカセット群

フジオーディオカセット群

一方,オーディオカセットテープの分野では,当社は,“FXシリーズ”,“レンジシリーズ”に次いで,1980年(昭和55年)2月,“ニューフジカセット”(DR,ER,UR,SR)を発売し,市場浸透作戦を進めてきたが,1981年(昭和56年)10月,高級音楽用カセットテープ“フジカセットFR-I”(ノーマルポジション用),“フジカセットFR-II”(クロームポジション用)を発売した。“FR-I”・“FR-II”は,新開発の高性能磁性体を使用し,新しい製造法と新しい表面処理技術から生まれた高感度(ハイセンシティビティ)カセットテープであった。

その後,1982年(昭和57年)には,ニューフジカセット“DR”,同“ER”の性能アップを図り,4月に“フジカセットニューER”を,6月に“フジカセットニューDR”をそれぞれ発売した。

さらに同年7月には,第2世代のメタルカセットテープ“フジカセットFR METAL”をFRシリーズに加えた。これは,従来,力感・量感といったパワーや高域特性が重視されていたメタルテープのイメージを一新して,高域だけでなく,中域や低域にまでフラットに伸びる周波数特性と全帯域にわたって安定したエネルギーバランスを確保することに成功したテープで,FRシリーズの中で最高のダイナミックレンジを有していた。したがって,スケールの大きな豊潤な原音を忠実に再生し,各楽器の微妙な表現をち密に再現することができ,高級オーディオマニア層に好評をもって迎えられた。

カーステレオ専用テープ“GT-I”の発売

当社は,世界で初めてのカーステレオ専用オーディオカセットテープ“GT-I”を1983年(昭和58年)7月,発売した。

自動車というカセットの使用環境からいえば過酷な状況を見直し,車内各部,特に,ダッシュボード上での温度実測データ(夏期90℃近くなる場合があり,最高104℃の実測例もある)をもとに,種々の条件を設定評価して開発された。

基本設計は,110℃でも耐えられるタフなもので,新開発のHDメカニズム(耐熱ケース,熱収縮率を抑えたHDべース,高温下での磁性層の強度と安定性を向上させたHDバインダーの総称)に先進のサウンド化技術としてM&Mプロセス(テープの長さ方向に,規則正しく,かつ,高い集積度で配向する製造技術)を加え,ヘビーデューティ特性と電磁変換特性との相反する製造条件を克服し,真夏の車内でもケースの変形をなくし,テープ性能の劣化を抑え,優れた音質(特に高域での音の良さ)と走行性を実現し好評を得た。

また,ケースにも,ノンスリップ機構,AB面の識別機能などを追求した独特の工夫がなされており,その音楽特性と合わせて,カーステレオ以外のユーザーにも広がりをみせている。

フロッピーディスクヘの本格参入

レコード盤状のポリエステルベース上に磁気記録材料を塗布したフロッピーディスクは,1970年(昭和45年),米国のIBM社によってディスク装置が開発され,1972年(昭和47年),IBM3740データエントリーシステムに採用されてから急速に利用されはじめた。

テープでは,必要な情報を取り出すのに必要な個所までテープを走行させなければならないのに対し,フロッピーディスクは,円盤上に同心円上で情報が磁気記録として収録されているので,磁気ヘッドが移動することにより必要な情報をより速く取り出すことができる。このため,わが国でも,1974年(昭和49年)ごろから,小型電子計算機・パソコン・ミニコンなどにフロッピーディスクが用いられるようになり,その国産化と低価格での供給が求められた。

[写真]富士フイルムフロッピーディスクFD3000

富士フイルムフロッピーディスク
FD3000

[写真]富士フイルムフロッピーディスクMD,FD

富士フイルムフロッピーディスクMD,FD

当社は,このような要請に応え,1977年(昭和52年)2月,国産初のフロッピーディスク“富士フイルムフロッピーディスクFD3000”を発売した。

その後,ワードプロセサーなどの登場,パソコン・ミニコンの普及などに伴って,それらの情報記録媒体としてフロッピーディスクが用いられるようになり,需要も急増していった。当社は,1982年(昭和57年)5月,フロッピーディスク市場への本格参入を目指し,“富士フイルムフロッピーデディスクMD”シリーズおよび同“FD”シリーズを発売した。

“MD”シリーズはディスク直径5.25インチ,“FD”シリーズは同8インチで,それぞれフルラインアップを準備し,各種の使用目的に合わせて適切な製品を選べるようにした。

また,“FD”シリーズには,誤って書き込むのを防止するためのライトプロテクトノッチ付き品をラインアップに加えた。

“FD”・“MD”シリーズは,耐久性・耐候性・互換性に優れていること,品質性能が安定しエラーがないこと,取り扱いが容易なことなどを目標に開発した。特に,当社独自の技術によるRDバインダーシステム(Reliable and Durable Binder System)を採用することにより,タフネスと安定した性能を備えたフロッピーディスクとなり,厳重な出荷検査と厳しい寸法仕様管理を実施し,機能性や取り扱い性能の向上を図っている。

1983年(昭和58年),国内市場でのフロッピーディスク需要は,8インチと5.25インチ合わせて2,000万枚を超え,対前年伸び率も50%を上回る成長率を維持していた。

一方,当社の海外向け販売は,1983年(昭和58年)初めから欧州に輸出開始,また,日本のおよそ10倍の市場規模をもっている米国に対しても,順次当社ブランドによる本格的進出を進め,輸出比率も急速に上昇した。

その後、新たに登場した小型3.5インチフロッピーディスクシステムも,装置のコンパクト化と相まって,急速に伸長していった。

富士マグネディスク株式会社の設立

[写真]富士マグネディスク株式会社

富士マグネディスク株式会社

1984年(昭和59年)1月,フロッピーディスクについて,今後の生産・加工体制を拡充強化するため,当社は,フジカラーサービス株式会社と共同出資で富士マグネディスク株式会社を設立した。同社の資本金は4億9,000万円(当社が40%を出資)で,本社および工場を東京調布に置き,業務を開始した。当社は,フロッピーディスクの原反を同社に供給し,同社で加工・包装を行ない,完成した製品は,当社を通じて販売している。

同社ではまた,今後予測される各種のディスク状磁気記録材料の加工工程にも対応すべく,その体制の充実を進めていった。

本社内に「AVセンター」設置

当社は,1983年(昭和58年)10月,本社内に,ビデオスタジオ・オーディオ試聴室等からなる「AVセンター」を完成した。

使用目的は,オーディオ製品やビデオ製品の開発・改良のための評価,テストおよび販売ルートヘのビデオによる情報提供や実技による教育研修などで,当社オーディオ製品・ビデオ製品のより一層の充実強化に寄与した。

小田原にビデオテープ専用工場を完成

ビデオテープの需要の増大に伴い,当社は,数次にわたって小田原工場の磁気記録材料製造設備の増強を図ってきた,しかし,1980年代に入って,家庭用VTRの普及に伴い,ビデオカセットテープの需要が激増し,生産が間に合わない状況となった。

そこで,当社は,おう盛な需要に応えるとともに,将来の需要増大に対処するため,小田原工場内に小型ビデオテープの専用工場を建設することとし,1981年(昭和56年)7月に完成をみた。

[写真]新鋭ビデオテープ工場(小田原工場)1981年(昭和56年)

新鋭ビデオテープ工場(小田原工場)
1981年(昭和56年)

[写真]磁性体の塗布工程

磁性体の塗布工程

新工場のテープ塗布乾燥装置は,写真感光材料や磁気テープ製造で培ってきた精密製造技術をもとに自社開発したもので,広幅・高速・均一性など優れた能力を有している。また,製造工程全般についてコンピューターによる管理方式を徹底させ,できる限り少ない人員で運転できるようにした。さらに,溶剤などの排気についても,専用の脱臭炉と工場ボイラーとを組み合わせて環境対策に万全を期するとともに,排気の有効発熱量を回収して大幅な省エネルギーを実現した。また,加工設備についても,新鋭かつ高性能の機械が備えられた。

新工場の完成によって,ホームビデオテープの月産能力は150万巻から400万巻へと一挙に2倍以上に増大した。しかし,VTRの普及はそれを上回るスピードで進み,新工場をフル稼動させても生産が間に合わない状況であった。将来とも増大が予想される需要に応え,かつ,シェアアップを図っていくためには,さらに生産能力を増大させることが必要であると考えて,1981年(昭和56年),完成したばかりの新工場と並行して,テープ塗布乾燥ラインを増設するとともに,加工設備の増強を図ることとした。

新製造ラインでは,一層徹底した自動化によって大幅な省力化を実現するとともに,熱回収もさらに徹底させるなど,省エネルギー化を図った。この新ラインは,1982年(昭和57年)10月に完成し、稼動を開始。加工部門も内製・外注を含めて万全の体制が整えられた。

新ラインの完成により,小型ビデオテープの月産700万巻体制が確立し,小田原工場は世界最大のビデオテープ工場となった。そして,“フジビデオカセットHG”・同“スーパーHG”さらに後述する“スーパーXG”など,優れた品質のテープを市場に送り出していった。

小田原工場の変容 - 磁気記録材料生産規模の拡大

この数年間の磁気記録テープ生産工場の相次ぐ増設によって,小田原工場の姿は大きく変容した。

小田原工場は,1938年(昭和13年)の創設以来,写真感光材料の生産に必要な原料薬品を足柄工場に供給する写真薬品部門と光学ガラスその他を生産する光学部門の二本の柱で経営してきた。

写真薬品部門は,写真感光材料生産に最も重要な硝酸銀をわが国最大規模で最高品質のものを安定して供給するとともに,写真処理薬品の生産を担当し,また,カラーフィルム・カラーぺーパーの生産にとって極めて重要なカプラーを次々に開発し,当社の写真感光材料事業発展の一翼を担ってきた。

1950年代後半になって,当社が新規事業部門への進出を企図したのに伴い,磁気記録材料をはじめ,感圧紙・PS版・電子写真材料と,いずれもその試作工場の建設地を小田原工場構内に求めたため,小田原工場はこれら新規4事業の育成工場としての性格も有するようになった。

これらの新規事業は,その後事業が本格化するに従い,試作から本格製造に移行し,それぞれの生産工場を建設することが必要となっていった。

そこで,まず感圧紙部門が富士宮工場へ,次いで電子写真材料部門が竹松工場へ,また,PS版の生産も吉田南工場へと,それぞれ,新工場を建設し,移転した。

そして,ひとり磁気記録材料部門のみが,他の試作工場が移転したあとを活用して,工場内で次第に規模を拡大し,いまや,世界屈指の生産設備を擁するに至った。今日では,小田原工場は,磁気記録材料部門と写真薬品部門の2部門を経営の柱とする工場に変容,飛躍を遂げたのである。

次世代高密度ビデオテープ - 新技術の開発

[写真]8mmビデオのサブリファレンステープ タイプA(メタルテープ),タイプB(蒸着テープ)

8mmビデオのサブリファレンステープ
タイプA(メタルテープ),タイプB(蒸着テープ)

[写真]8mmビデオの規格統一を伝える新聞記事 朝日新聞 1983年(昭和58年)3月

8mmビデオの規格統一を伝える新聞記事
朝日新聞 1983年(昭和58年)3月

ビデオテープの磁性体は,酸化鉄から二酸化クロムヘ,そしてベリドックス,スーパーファインベリドックスヘと発展してきた。当社は,より進んだビデオテープの開発に取り組み,1981年(昭和56年)2月,次世代のビデオテープの二つのタイプ“メタルテープ”と“蒸着テープ”を開発し,発表した。

メタルビデオテープ“MVタイプ”は,すでにオーディオカセットテープに用いられているメタル磁性体を発展させ,ビデオテープ用のメタル磁性体として新たに開発したもので,これを用いて,高密度記録に適したビデオテープを試作,ハードメーカー各社にサンプルを提供している。

一方,蒸着ビデオテープ“VVタイプ”は,真空中で強磁性金属の原子を飛ばしてテープ上に固定する真空蒸着法によるビデオテープで,この方法によれば,従来の塗布法では不可能な極めて薄いテープをつくることができ,上述の“MVタイプ”よりも,長時間対応のテープを実現することが可能である。

当社が開発したこれら二つのタイプは,次世代の高密度ビデオテープあるいは8ミリビデオシステムを実現するうえで欠かせないもので,各ハードメーカーと協力しつつ実用化研究が進められた。

なお,当社では,製造設備としても十分使える蒸着テープのパイロットプラントを1983年(昭和58年)に完成させ,このプラントによる製品開発を進めた。

また,より軽量かつ小型コンパクト化が求められている次世代のビデオテープレコーダーとしての8ミリビデオについては,1983年(昭和58年)3月に8mmビデオ懇談会にて事実上合意された規格により,使用される磁気テープについては,メタルテープと蒸着テープが併用されることとなった。当社は,信頼性テスト・品質テストならびに量産化に向けて諸準備を進め,1983年(昭和58年)6月に,他社に先駆けて,サブリファレンステープの供給を開始した。

1984年(昭和59年)秋に西独ケルンで開催されるフォトキナには,当社は,新たに開発したカメラ一体型8mmVTR“フジックス-8”と8mmビデオテープ“フジックス-8ビデオカセット”を出展した。

一方,磁気記録装置の小型軽量化対策の一つとして期待されている「垂直磁化方式」の技術については,真空中スパッター法(被覆させようとする材料,例えばコバルト・クロム合金の板に,荷電したアルゴンイオンを衝突させて,コバルト原子・クロム原子をはじき出し,これをベースに受けて薄層をつくる方法)や塗布法などにより研究開発を進めた。垂直磁化方式では,磁性材料の膜に対して垂直,すなわち厚さ方向に磁化するもので,従来からの磁化方法である面内磁化方式に比較して,10倍・20倍といった高密度記録を達成できるところから,コンピューターやビデオ,そしてフロッピーディスクなど,一層軽量コンパクト化が求められる分野での利用が期待された。

今後の高密度記録材料の開発には,ハードとメディアのシステムとしての研究が不可欠であり,特に,磁気テープや磁気ディスクと直接コンタクトする磁気ヘッドは大切で,この面の研究も強化している。

このようにして,当社は,新製品の導入や新技術の開発に向けても常に積極的な姿勢で取り組み,磁気記録材料メーカーとして質・量ともに大きく飛躍し,その地位を確立していった。

 
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