映画用カラーネガフィルムの高感度化とロングライフ商品の開発
テレビ用フィルム“フジカラーリバーサルフィルムRT400”、同“RT500”の開発に成功した当社は、映画用カラーネガフィルムについても、高感度化にチャレンジし、1980年(昭和55年)9月、“フジカラーネガティブフィルムA250”を発売する。“A250”は、当時の映画用カラーネガフィルムとしては世界最高感度で、国内外の作品に数多く使用され、1982年(昭和57年)3月、映画界最高の栄誉である米国アカデミー科学技術賞の受賞に輝く。1983年(昭和58年)4月には、さらに画像保存性を大幅にアップしたロングライフシステム新製品“フジカラーネガティブフィルムA”、“フジカラー高感度ネガティブフィルムAX”、“フジカラーポジティブフィルムLP”を発売する。
映画用カラーネガフィルム“A250”の開発
フジカラーネガティブフィルムA250
(タイプ8528,タイプ8518)
“フジカラーネガティブフィルムA(エース)”は,1977年(昭和52年)発売以来,内外の映画製作に広く採用されてきたが,映画用カラーネガフィルムも一般写真用フィルムやテレビ用カラーリバーサルフィルムと同様に,高感度フィルムを求める声が一層強まってきた。1958年(昭和33年)に日本で初めて劇映画に当社のカラーネガフィルムが使用されたときは,露光指数25の低い感度であったが,1980年(昭和55年)9月,当社は,世界に先駆けて高感度“フジカラーネガティブフィルムA250”(35mmフィルム・タイプ8518,16mmフィルム・タイプ8528)を発売した。高拡大率を必要とする映画用フィルムの高感度品の開発には,多くの困難を伴ったが,当社は,新型カプラーをはじめとする新素材や新技術を開発して,ついに,高感度化を実現したのである。
当社は,その間,感度の上昇のみを追求するだけでなく,粒状性やシャープネスといった画質に大きく影響する要素についても改善を続けてきた。とりわけ,1971年(昭和46年)以降広く使用された“フジカラーネガティブフィルム”の感度は,いずれも露光指数100のフィルムであったが,“A250”は,それらの2.5倍の高感度でありながら,粒状性・シャープネスとも十分実用可能な優れたものであった。高感度フィルムの利用によって,その場の明るさをそのまま利用して撮影することが可能になり,周りの人などに気付かれず,ドキュメンタリータッチでリアルな映像が得られる。
また,セット撮影でも,レンズの絞り込みによるシャープな画像描写が可能で,動きの激しいアクション撮影も容易になるなど,映像表現の拡大につながる大きな効果があった。
“A250”は,“フジカラーネガティブフィルムA”と同じ現像処理が可能で,かつ,世界中どこでも現像できるワールドタイプであり,また,さらに感度を優先する場合は,増感現像によって超高感度フィルムとしても使用できるなどの特長をもったものである。
当社が公式発表に先立ってデモンストレーション映画の製作を開始したときには,映画業界から,早くテストしたいとの要望が出るなど大きな期待が高まった。“A250”発売と同時に,テレビのコマーシャル分野では,多数のCFに使用され,また,NHKでは,海外取材の特別番組「シルクロード」の撮影などにも使用された。
劇映画分野では,東宝創立50周年記念映画「海峡」をはじめ,松竹の「疑惑」や東映の「誘拐報道」など数多くの作品に採用された。その他,短編文化映画にも使用された。また,海外でも“A250”は高く評価され,米国や西ドイツ,そしてフランスなどの劇映画に幅広く採用され,特に西ドイツ映画超大作「Uボート」は,1982年(昭和57年)1月,日本でも封切られ,大ヒットした作品である。
米国アカデミー科学技術賞に輝く
アカデミー科学技術賞を受ける
当社大西社長© A.M.P.A.S. ®
1982年(昭和57年)3月21日,ハリウッドに近いビバリーヒルトンホテルにおいて,1981年度米国アカデミー賞の科学技術部門の授与式が行なわれ,アカデミー会長フェイ・カニン女史(Mrs. Fay Kanin)から当社大西社長にアカデミー科学技術賞(Academy Award of Merit)として金色に輝くオスカー像が授与された。米国映画芸術科学アカデミーは,毎年その年に製作された作品の中から,最優秀映画賞のほか,最優秀監督賞・最優秀主演男優賞・最優秀主演女優賞などを選出するとともに,映画界の発展に貢献した学問や技術に対してアカデミー科学技術賞を贈っている。アカデミー賞は,映画人にとって最高の権威であり栄誉であるのに対し,アカデミー科学技術賞は,映画界に寄与した科学的発明・発見や技術上の業績に贈られる賞である。
当社が世界に先駆けて開発した“フジカラーネガティブフィルムA250”が最高の栄誉であるアカデミー科学技術賞に選ばれ,オスカー像が贈られたのである。
「富士フイルムの開発した映画用高感度カラーネガフィルムは,映画監督やカメラマン,そして製作者に新しいレベルの芸術的・技術的・経済的効果をもたらしました。映画製作上大きな前進をもたらしたものといえます……」とアカデミー会長があいさつを述べた。この受賞式の模様は“A250”で撮影され,3月29日最優秀映画賞などの授賞式の会場で映写され,生中継で,テレビカメラがそのスクリーンをクローズアップして全米に放映した。また,当社は,翌日のニューヨークタイムスやロサンゼルスタイムス,そしてシカゴトリビューンの三大紙に全ページの広告を行ない,当社の技術を訴え,その信頼性を強調した。
さらに,“A250”は,1982年(昭和57年)9月,米国テレビ芸術科学アカデミーからエミー賞(技術賞)を受賞し,アカデミー科学技術賞に続いて,高い評価を受けた。
ロングライフシステム- 画像保存性の大幅改良
富士映画用フィルム商品群
当社は,1983年(昭和58年)4月,従来の映画用フィルムよりさらに画像の保存性などを大幅に改良し,あわせて,世界の主流現像処方になる無公害の過硫酸塩漂白処理適性をもたせた“フジカラーネガティブフィルムA”(タイプ8511,タイプ8521)と“フジカラー高感度ネガティブフィルムAX”(タイプ8512,タイプ8522),および“フジカラーポジティブフィルムLP”(タイプ8816,タイプ8826)の3品種(いずれも35mmおよび16mmの両サイズ)をロングライフシステムとして発売した。
“フジカラーネガティブフィルムA”は,感度も従来の露光指数100から露光指数125にアップし,また,色再現性を改良し,画像保存性を大幅に向上させたもので,超微粒子・シャープネスの良さで内外の映画やテレビのCM撮影など,数々の作品に使用された。
一方,“フジカラー高感度ネガティブフィルムAX”は,先進の高感度技術により,感度を露光指数320にアップさせ,撮影領域と映像表現の拡大に威力を発揮し,また,暗部の粒状性の改善とシャープネスの向上を図り,しかも“A”と同様,画像保存性を大幅に改良したものである。“フジカラーポジティブフィルムLP”も画像保存性やカラーバランスなどを一層改良したものである。
これら,画像保存性を大幅に向上したカラーネガフィルムとカラーポジフィルムのロングライフシステムは,映画業界,とりわけ映像製作に携わる監督をはじめ,カメラマンやプロデューサーなどから自己の創造した映像芸術の長期保存を可能にした意義あるものとして歓迎された。また,実際の作品としても次々にクランクインされ,例えば,東宝・キネマ旬報社作品「ヨーロッパ特急」,東映作品「白蛇抄」には全編“AX”が使用され,その他,東宝作品「居酒屋兆治」,松竹作品「迷走地図」などの話題作は,“A”を主体に,“AX”を併用して完成されたものである。
また,“AX”は,“A”と同様に海外にも輸出され,多数の映画製作に使用されている。